2019年12月31日

「この世界の片隅で」:映画を体験する

宮崎駿さんは対談で、ある学生から「トトロを10回以上みました!!」といわれたことに対して「同じ映画なんてそんなに何回もみるもんじゃない。」とおもったそうです。隣のトトロでいいたかったことはむしろ逆で、家の中でテレビやアニメを見るより、サツキやメイのように「もっと外に出て本物の自然と触れ合いなさい。」と言うことだったらしい。なんとも皮肉ですね。我輩もたまに塾生に「ゲームやSNSばっかりやるんじゃないよ」などとオジサンのお説教をいたしたりしてます。

でも、我輩はこうもおもいます。映画を観ることで、一個人では体験できないものを経験できないものを経験できると思っています。我輩、もう若くもないですし(無限の未来は遠い昔のこと。)今まで、そしてこれから自分が経験するであろうことは、そのへんの猫とそれほどかわらないんじゃないかって思ってしまっているのです。でも映画ではいろんな人の人生を体験できる!と、そう思って映画を観ると、以前よりよりずっと深く映画を受け止めよられるようになったとおもいます。限りなくゼロパーセント近く会うことができないような人物、ストーリー、風景を体験できる。もちろん映画の体験と、ほんものの実体験とは絶対的に違いはある。(ないと困りますもんね。時々怪しくなりますが・・。笑) いい映画を見た後、本当に旅をした思い出のようにずっと残ります・・その時の感情風景のずっと残るような・・。宮崎ジブリアニメ作品でも、普段忙しくあくせく生活している中で、忘れ去ってしまった「異界の存在」を、まざまざと私たちに再現してくれています。

さて、おとといの日曜ようやく観た噂の傑作。この押し迫った年末+受験期に、疲れ果てた我輩にブログを書かせようとする映画。(観た人からは何をいまさら!と、いわれるでしょうが・・)観て以来ずっと余韻に浸っています。ただ、いつものようなストーリーの再現は止めときます。(余韻だけで書いてるので、ぜんぜんまとまらないだろうから・・。)ただ、この映画で経験し感じたことだけをとりとめもなく・・・。

「この世界の片隅で」
片渕須直監督・脚本
こうの史代:原作
MAPPA制作の長編アニメーション映画。
2016年公開
音楽:コトリンゴ

この映画では、”すずさん”という、ボケボケ天然のほんわかしたじつに可愛らしい若い女性と彼女につながる愛すべき善良な人々の戦中の日常(舞台は呉と広島)を繊細で柔らかくあたたかみのあるタッチのすばらしいアニメーションで描かれています。以下が、この映画で彼女たちが体験したことを目の当たりした吾輩の映画体験です。

戦時の食糧不足ので毎日の食卓を家族の為になんとか工夫してこさえるすずさん。物資の無い暮らし。絶望しかないような時代にすずさんだちのニコニコ楽しくやっていく暮らしぶりが実に細やかに描かれ言います。「今日は爆弾が落ちで魚なようけあがったよ・・ははは。」しかし、戦火が本土に移るにつれて、日々刻々、すずさんたちに際限なく容赦なく降り注ぐ爆弾の雨。いや、ほんとに怖かった・・・。アニメーションが現実を超えるリアリティをもって観るものを圧倒します・・。ほとんどの平凡な日本人があの時代に生まれた為に、すずさんたちと同じような経験せざる得なかったことに、今の平和で時代をのほほんと生きているわが身を振り返ると、なんて中身がないのだろうと・・・sad

でも、この映画 実は現代を描いているようにもおもうのです。コトリンゴの音楽はまさしく、2000年以降の今の音楽です。「悲しくやりきれない」は昭和の唄ですがその音色とアレンジはまさに今の音楽です。この淡々とした電子音楽が伴奏するすずさんの時代を描くことによって、”今”が影絵のように映し出されている、と・・。現代の視点から観みると、戦時中のすずさんたちの暮らしぶりこそ、理想郷に思えてくるのです。これは痛烈なアイロニーですね。あの絶望の時代から人々はなんとか助け合って作ってきたのが今の日本の社会。貧しく大変な時代すずさんたちが持ってた大切なもので、それがいつのままにか見失われてしまった。絵が大好きなすずさんが利き腕を爆弾で失って、残された左手で描いたような世界が現代なのでは・・と。そう思ったのは、今年観た深く印象深かった映画「聲の形」:伊図館にあります。「きみはいい子」「永い言い訳」を思い出したからです。(すべて監督は女性)これらは現代の日本を生きる傷つけたり傷つけられた人たちを切実に描いています。すずさんらがもっていたものを見失ってしまったものたちはをそれを取り戻そうともがきます。「この世界の片隅で」は今を描いた優れた映画は合わせ鏡のような関係にあると思います。


「悲しくてやりきれない・・・このかぎりないむなしさに救いはないだろうか・・?」 


「あるですけぇ。」とすずさんがいってるような気がします。






すずの声優はのん(能年玲奈 あまちゃんで有名)。彼女の声の演技なくして、この映画の成功はありえなかったでしょう。いや、ほんとすごいです。この世界の片隅でのんの宝石のような才能をみつけました!

実はこの映画の完全版「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」が今、全国で順次上映されています。2016年公開作品の予算(多くはクラウドファンディング)の都合で、30分カットを余儀なくされてたらしい。それが映画の大評判と興行成績の成功で、完全版が再び上映されるようになったのです。遅れてレンタルで観た我輩にとって映画館でリアルタイムで観れる絶好のチャンス! 佐賀は2020年1月31日~(金曜日)でも、受験期のピーク!どーしよ(*_*;。 受験生でない塾生に折を見て勧めたいです。伊万里市民図書館もDVD設置は是非是非!!

では、よいお年を。.happy02








追記:戦時中、伊万里の浦の崎港の「浦田造船所」に対しても空襲があったらしい。その浦田造船所は戦後長らく廃墟のままだったが、つい数年前に保存か撤去か議論された末、取り壊された。吾輩、写真も撮りに行ったがその写真がみつからないです。残念無念。その代わりではないですが、長崎県の川棚町にある、「魚雷発射訓練所跡」写真が見つかりました。ここは文字通り「世界の片隅」をほうふつさせるような戦争の傷跡の原風景がいまだに残っています。そこはまさに世界の終わりの場所のような空気感が漂っているのです。



川棚魚雷発射訓練所跡